このガイドの位置づけ
特別支援学級、通級による指導、通常の学級で特別な支援が必要な児童生徒を担当する教員が、生成AIを授業や準備に取り入れる前に、配慮すべき点と使い方の選択肢を整理するためのガイドです。
| 対象 | 特別支援学級・通級指導教室の担当教員、特別支援教育コーディネーター、通常の学級の担任 |
|---|---|
| 所要時間 | 読了 約20分/校内委員会などでの検討 30分(導入前の検討シートを使用) |
| 端末・AIサービス | 学校・設置者が承認した環境のみ。児童生徒が直接操作するかどうかは、年齢条件と個別の実態を踏まえて判断します。 |
| 準備物 | 個別の指導計画、学校の生成AI利用ルール(ひな型)、利用予定サービスの利用規約、検討シート |
ねらい
- 生成AIの特徴が、学び方に特性のある児童生徒にどう影響しやすいかを具体的に想定できる。
- 「教師が使う」「教師と一緒に使う」「児童生徒が使う」の段階を区別し、目の前の児童生徒に合う段階を選べる。
- 障害や困りごとに関する情報を生成AIに入力しない理由を説明し、校内で共有できる。
基本の考え方:代わりではなく、選択肢を増やす道具
文部科学省のガイドラインは、人間中心で生成AIを利活用すること、出力はあくまで参考の一つであり最後は人が判断することを基本にしています。特別支援教育でもこの考え方は同じです。生成AIは、読み書きや見通しの持ちにくさなど学習上の困難を補う手段の一つになり得ますが、教師の見取り、人との関わり、自立活動の指導に置き換わるものではありません。
また、障害者差別解消法にもとづく合理的配慮は、本人・保護者との対話によって内容を決めていくものです。生成AIの利用は配慮の選択肢の一つとして検討し、「AIを使えば配慮をしたことになる」とは考えません。
生成AIの特徴と、起こりやすいこと
| 生成AIの特徴 | 起こりやすいこと | 配慮の例 |
|---|---|---|
| もっともらしい誤りを出す | 書かれたことを文字どおりに受け取りやすい児童生徒が、誤りを事実として覚えてしまう。 | 「AIの答えは下書き」と視覚的に示す。出力を一緒に読み、確かめる役を大人が担う段階から始める。 |
| いつでも、否定せずに応答する | 人より話しやすいと感じ、長時間の対話や相談の置き換えにつながる。AIを人のように感じる。 | 「困ったことの相談は人へ」を約束にする。利用の開始と終了を時間や手順カードで区切る。 |
| 出力が長く、情報量が多い | 読む量が多すぎて負担になる。どこが大事か分からない。 | 教師が事前に「3文で」「ふりがなをつけて」などの条件を決めておき、出力を確認してから提示する。 |
| 同じ質問でも毎回答えが変わる | 見通しが持てず不安になる。「前と違う」ことにこだわる。 | 使う前に「毎回少しずつ違う答えが出る」ことを伝える。授業で使う出力は事前に作って固定する。 |
| 入力した内容が事業者に送られる | 自分の障害、診断名、家庭のことなどを詳しく入力してしまう。 | 入力しない情報を具体例で示し、入力前に教師が確認する。 |
| 画像を生成できる | 意図しない表現や刺激の強い画像に驚く。感覚過敏がある場合は特に負担になる。 | 画像は教師が事前に生成・確認したものだけを提示する。 |
使い方の3段階
- 教師が準備に使う教材の言い換え案、ふりがな付きの短い文、手順カードの文案、練習問題のたたき台などを作り、教師が内容を確認・修正してから使います。児童生徒は生成AIに触れません。最初はこの段階から始めることを勧めます。
- 教師が操作し、一緒に見る教師の端末で入力し、大型提示装置などで出力を一緒に読みます。「どう聞けば伝わるか」を考える、出力の誤りを探すなど、言葉にする力や確かめる力を育てる活動に向きます。
- 児童生徒が自分で使う学校が承認したサービスで、年齢条件と保護者の理解を満たし、教師の指導監督の下で使います。入力する内容、使う時間、困ったときの合図を事前に決めておきます。
活用案
教師の準備で
- 読みやすい言い換え:教科書の内容を自分で要約した文を入力し、「小学3年生が読める言葉で、1文を20字程度に」と条件をつけて言い換え案を出す。意味が変わっていないか、教師が原文と照らし合わせて確認する。
- 見通しのための手順カード:「校外学習の集合から出発まで」など、一般的な流れの文案を作り、実際の予定に合わせて教師が書き直す。
- 練習問題のバリエーション:同じ型の計算問題や語彙の練習を、興味のある題材(電車、動物など)に置き換えた案を作る。答えは必ず教師が検算する。
教師と一緒に
- 質問をつくる練習:「知りたいこと」をAIへの質問文にする。うまく伝わらなかったときに言い換える経験を、伝える力の学習につなげる。
- まちがい探し:教師が事前に用意した、誤りを含むAIの出力を一緒に読み、どこが違うかを探す。
児童生徒が使う場合
- 構成メモへの問いかけ:自分で書いた構成メモをもとに、「足りない観点を質問して」と頼み、出てきた質問に自分で答える。文章そのものをAIに書かせない。
- 音声入力・読み上げとの組み合わせ:書字に困難がある場合、音声入力で考えを話し、出力を読み上げ機能で確認する。使う機能は個別の指導計画に記録する。
進め方の例(20分の個別・小集団活動)
- 見通しを示す
手順カードで「今日AIでやること」「やらないこと」「終わりの合図」を確認する。
- 一緒に入力する
教師が操作し、児童生徒は質問の言葉を考える。入力する前に、名前や学校のことが入っていないかを一緒に確かめる。
- 出力を確かめる
出力を一緒に読み、「本当かな?」と思うところに印をつけ、教科書や資料で確かめる。
- 振り返る
「AIが役に立ったこと」「自分で考えたこと」を一つずつ、話す・選ぶ・書くなど本人に合う方法で表す。
困った場合の対応
| 場面 | 対応の例 |
|---|---|
| AIの誤った答えを信じて譲らない | 本人の考えを否定せず、教科書や資料を一緒に見る。「AIはまちがえることがある」をカードにして繰り返し示す。 |
| AIとの対話をやめられない | 終わりの合図と次の活動を事前に決めておく。必要に応じて「教師が操作する」段階へ戻す。 |
| 出力に驚いた・不安になった | 画面を閉じ、落ち着ける場所や方法を本人と確認する。不適切な出力は内容を記録して校内の担当者へ報告する。 |
| 悩みや体調をAIに相談していた | 入力内容を責めず、話を聞く。必要に応じて学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー等と連携する。 |
| 家庭で長時間使っているようだ | 本人の様子として保護者と共有し、家庭のルールづくりを一緒に考える(保護者ワークショップを参照)。 |
架空の事例:通級で作文に取り組む中学1年生
※この事例は、本ガイドのために作成した架空の事例です。
書くことに強い苦手意識がある生徒Bさん。担当教員は第1段階として、Bさんが話した内容を教員がメモし、そのメモから「段落の順番の候補」をAIで3案作り、内容を確認した上でBさんに見せました。Bさんは3案から一つを選び、自分の言葉で書き直しました。次の段階では、教員の端末でBさん自身が質問文を考えました。教員は、作文そのものをAIに書かせないこと、Bさんの名前や学校名を入力しないことを、毎回の手順カードに入れました。
個人情報・著作権・年齢条件・事実確認の注意
- 個人情報:障害や病気、診断名、服薬、検査の結果などは、個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たり得る、特に慎重な扱いが必要な情報です。家庭の状況も含め、個別の指導計画や支援記録の文案作成にこれらの情報を生成AIへ入力しないでください。少人数の学級では、名前を消しても組み合わせで本人が特定されやすいことにも注意します。
- 著作権:教科書や市販教材の文章を丸ごと入力して言い換える使い方は、授業の過程での利用の範囲か、サービスの利用条件に反しないかを確認してください。迷う場合は、自分で要約した文を入力します。
- 年齢条件:多くの生成AIサービスは利用規約で年齢条件や保護者の同意を定めています。最新の利用規約で確認し、満たさない場合は児童生徒に直接使わせません。
- 事実確認:言い換え・要約の出力は、意味が変わっていないかを必ず原文と照合します。数や手順の誤りは、見通しを大切にする児童生徒にとって特に影響が大きくなります。
保護者・管理職への説明
- 使う目的(例:読みの負担を減らす、伝える力を育てる)と、使わないこと(例:作文を代わりに書かせない)をはっきり伝えます。
- 児童生徒が直接使う場合は、個別の指導計画への記載と、保護者との合意を事前に行います。
- 管理職・特別支援教育コーディネーターには、使うサービス、段階、入力しない情報、見直しの時期を検討シートで共有します。
根拠と参照資料
- 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日)(2026-10-01確認)
- 文部科学省「学校現場における生成AIの利用について」(2026-10-01確認)
- 文部科学省「特別支援教育に関する最近の主な動向」(2026-10-01確認)
- 内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進」(2026-10-01確認)
- 独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所(2026-10-01確認)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2026-10-01確認)
- 文部科学省「教育データの利活用に係る留意事項について」(2026-10-01確認)
利用条件と版
CC BY-NC 4.0。出典を表示し、非営利目的で改変できます。詳細は利用条件をご覧ください。教材版:1.0/更新日:2026-10-01/参照資料の確認日:2026-10-01。
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