高校 / 公共・情報・総合的な探究の時間 / 50分

AI倫理ディベート:だれが責任を持つ?

AIが間違えたとき、責任はAIにあるのでしょうか。架空の事故を題材に、AIに関わる人たちの役割と責任の分け方をディベートで考えます。

授業時間
50分
対象
高校1–3年
端末
不要
更新日
2026-10-01

導入 10|準備 10|ディベート 15|まとめ 15

この授業で目指すこと

対象:高校1–3年/教科:公共、情報、総合的な探究の時間/所要時間:50分

  • AIシステムに関わる主体(開発者・提供者・利用者・サービスを使う人)を区別し、それぞれの役割を説明できる。
  • 事例の事実を根拠に、立場に沿った主張と反論を組み立てられる。
  • 「AIのせい」で終わらせず、事故を防ぐために各主体ができたことを分担表にまとめられる。
この授業で扱わないこと:法的な責任(賠償など)がだれにあるかは、契約や法令に基づいて個別に判断されます。この授業では法的な結論を出さず、各主体が果たすべき役割を考えます。

準備物と端末・AIサービス

  • 投影スライド(事例、論題、進め方、ルール)
  • ワークシート(1人1枚。架空の事例、根拠カード、判定シート、分担表)
  • タイマー(スライドショーの経過時間表示でも可)
  • 6人班(肯定2人・否定2人・審判2人)。人数が合わない場合は審判を1–3人で調整する。
項目この授業での扱い
生徒の端末不要。
AIサービス使いません。事例は架空で、AIの回答も紙に示した固定の内容です。

架空の事例

架空の事例:あおば市のAIごみ分別案内

あおば市(架空)は、住民がスマートフォンで品目を入力すると分別方法を答える「AIごみ分別案内」を始めました。ある日、住民のBさん(架空)が「使い終わったモバイルバッテリー」と入力すると、案内は「燃やさないごみ」と答えました。市のきまりでは、モバイルバッテリーは公共施設の回収ボックスに出す品目です。Bさんが燃やさないごみに出した結果、収集車の中で発火し、収集車の一部が焼けました。けが人はいませんでした。

あとで分かったこと

  • 案内は、提供会社(架空)が、開発会社(架空)の汎用AIモデルを組み込んで作り、市に納めたものだった。
  • 市は導入前に、よく問い合わせのある100品目で回答を試したが、モバイルバッテリーは含まれていなかった。
  • 画面の下に小さな文字で「回答は参考です。正確な情報は市の分別表で確認してください」と書かれていた。
  • 市の分別表(紙とWeb)には、正しい出し方が書かれていた。
  • 導入後、別の住民から「電池の回答がおかしい」と市に連絡が1件あったが、担当者の間で共有されていなかった。

論題とディベートの進め方

論題:「この事故の責任は、主にAI案内を導入したあおば市が負うべきである」

順番内容時間
1肯定側 立論2分
2否定側から肯定側への質問1分
3否定側 立論2分
4肯定側から否定側への質問1分
5作戦タイム1分
6否定側 反論・まとめ2分
7肯定側 反論・まとめ2分
8審判の判定と理由2分

ルール:立場はくじや指名で割り当てたもので、本人の意見ではありません。人ではなく主張に反論します。事例に書かれていない事実を作りません。

50分の進め方

  1. 導入:事例を読む

    スライドで架空の事例を示し、「この事故はだれの責任?」と直感を挙手で聞く。

  2. 登場する4者と論題・ルール

    開発会社・提供会社・市・Bさんの役割を整理し、論題と進め方、ルールを確認する。班内で立場を割り当てる。

  3. 準備:根拠カードを作る

    肯定・否定はそれぞれ根拠カードを3枚作る。審判は判定の観点を確認し、両者に聞きたい質問を考える。

  4. ディベート

    班ごとに進め方の表どおり実施する(13分)。教師は時間を全体で管理する。

  5. 立場を外して:責任の分担表

    ディベートの立場を外し、4者それぞれが「事故の前にできたこと」「事故の後にすべきこと」を班で表にする。2–3班が全体に共有する。

  6. 振り返り:出口チケット

    「AIを使う側になったとき、私が責任を持って確認したいことは__」を書く。

想定される論点と教師の発問

立場想定される主張根拠にしやすい事実
肯定(主に市)導入を決め、住民に使わせたのは市。試験・連絡の共有・注意表示の工夫が不十分だった。試験にバッテリーが含まれていない。誤りの連絡が共有されていない。注意書きが小さい。
否定(市だけではない)誤った回答を生んだ仕組みを作ったのは開発会社と提供会社。住民も分別表で確認できた。回答は提供会社の製品。分別表には正しい情報があった。「参考です」と表示されていた。

発問と返し方

発問想定される反応返し方の例
この事故はだれの責任?「AIが悪い」「AIは謝ったり、直したり、責任を取ったりできる?」と問い、AIに関わる人や組織に目を向けさせる。
Bさんにも責任はある?「確認しなかったから自己責任」「市が案内を出している以上、住民が信じるのは自然では?」と逆の見方も示す。注意書きの大きさや位置が十分だったかも考えさせる。
1件の連絡が共有されなかったことはどう影響した?「気づけるチャンスがあった」導入後の運用(誤りの報告を受けて直す仕組み)も責任の一部であることにつなげる。

まとめで押さえる考え方

  • 内閣府「人間中心のAI社会原則」の人間中心の原則は、AIの利用がもたらす結果について、問題の特性に応じて、AIの開発・提供・利用に関わった種々のステークホルダーが適切に分担して責任を負うべきだとしています。
  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」は、事業活動でAIに関わる主体を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて役割を整理し、事業活動外でサービスを使う人(業務外利用者)への対応にも触れています。事例では、開発会社・提供会社・市がこの3者に、Bさんが業務外利用者に近い立場です。なお同ガイドラインは、提供者や利用者が自治体などの公的機関の場合は、民間事業者とは別の考えが必要になる可能性があると注記しています。
  • 分担表の例:開発会社=苦手な分野や誤りやすさの情報提供、提供会社=想定される質問での検証と誤りを直す仕組み、市=試験範囲の設計・注意表示・誤り報告の共有と停止の判断、住民=危険物は分別表でも確認する。

困ったときの対応

  • 相手を責める発言・人格への攻撃が出たとき:その場で止め、「主張に反論する」ルールに戻る。立場は割り当てであり本人の意見ではないことを再確認する。
  • 事例にない事実を作り始めたとき:審判に「事例に書かれているか」を確認させる。書かれていない点は「分からないこと」として扱う。
  • 話すのが苦手な生徒:根拠カードを読み上げる役、時間係、記録係を用意する。審判は書いて判定してもよい。
  • 時間が足りないとき:質問(2・4)を省き、立論・反論・判定だけにする。分担表は次時に回してもよいが、法的結論を出す授業ではないことは必ず伝える。
  • 実際の事故やニュースに話が広がったとき:実在の企業・人物の責任を授業内で判定しない。架空の事例で考える理由を説明する。

評価の観点

観点見取る場面十分に達成している姿
知識・技能ワークシート24者の役割を区別し、それぞれが関わった場面を事例から挙げている。
思考・判断・表現根拠カード、ディベート、判定シート事例の事実を根拠にして主張・反論し、審判は判定理由を根拠の質で説明している。
主体的に学習に取り組む態度分担表、出口チケット勝ち負けを離れ、各主体ができたことを具体的に書き、自分がAIを使う側としての行動につなげている。

ディベートの勝敗は評価に入れません。共通評価ルーブリックも使えます。

個人情報・著作権・年齢条件・事実確認の注意

  • 個人情報:事例はすべて架空です。生徒自身や家族が経験した事故・トラブルを発表させません。
  • 著作権:ディベートで報道記事などを引用する場合は、出典を明示し、必要な部分だけを使います。
  • 年齢条件:生成AIサービスには、利用できる年齢の下限や、未成年の利用に保護者の同意を求める条件を定めているものがあります。条件はサービスごとに異なり、変更されることもあるため、授業で使う場合は、学校(教育委員会)が利用を認めたサービスの最新の利用規約を授業前に確認し、必要に応じて事前に保護者の理解を得ます。この授業は、生徒がAIサービスを使わなくても実施できます。
  • 事実確認:ディベートでは事例に書かれた事実だけを根拠にします。実在の事故やサービスについて発言が出た場合は、確認されていない情報として扱います。

保護者・管理職への説明

AIが関わる事故で「だれが何をすべきだったか」を考える授業です。実在の企業や人物を扱わず、法的な責任の判定もしません。ディベートの立場は割り当てであり、生徒個人の意見ではないことを伝えてください。

根拠と参照資料

一次資料は確認日時点の内容です。改訂されることがあるため、授業前に最新版を確認してください。教材内の事例・人物・団体・数値はすべて架空です。

版と利用条件

CC BY-NC 4.0。出典表示のうえ非営利目的で改変できます。教材の版:1.0(更新日:2026-10-01)。

AI授業の準備室 / ATM-HS-ETHICS / 版 1.0 / 2026-10-01 / CC BY-NC 4.0